理屈付けするなら,不確定要素の取り込みということでしょうか?服や食べ物も自分で決めるとある程度のパターンに陥りがちです.そんな時はまるっきり人任せにしてみて,新しい感性をそのまま受け入れることにしています.
この上で何が起きるんだろう? |
今の仕事は同じことの繰り返しというか,小さいものの地味な積み重ねみたいなもので,サプライズは歓迎されません.その場のアドリブということはなく,エビデンスが要求されます.失敗しないためには正答を求めるような訓練も必要なことではありますが,模範解答に合わせる発想ばかりしていることによって失われた大きなものもあるようです.
午前中は久しぶりの渋谷で野暮用でした.暗いビルから外にでると青空が広がっています.脇のビルを見ると,以前に隣に住んでいたマークシティーに似ているので,懐かしくなってちょっと歩いてい見ようかと思って辺りを見回したら...駅側は低地となっており,反対側はちょっと登りでビルも低く,広い青空が広がっている.当然,青空の方に歩いてみると,マークシティーと思ったビルはヒカリエでした.銀座線も違う場所に発着していたし,久しぶりの渋谷は大きく変わっていました.午後は日本橋で別の用でしたが,渋谷駅に下るのは面白くないので,表参道まで歩いて行くことにしました.
ほとんど初めのような気分で歩いていると,左手に青山劇場が見えました.20年ほど前に何回か観劇しようと思ったこともありましたが,実現しないままにすっかりと存在を忘れていました.面白そうなポスターが貼ってあったので興味本位に覗きこんでみると,なんだか面白そうな即興演劇が始まる所でした.オペラやミュージカル,コンサートは海外では好んで出かけていましたが,日本ではほとんど観たことが無い上に,演劇というものにはまるで縁がありませんでした.たぶん,最も対極のような生活をしているような気がします.
実は鑑賞していると日本橋の用事には遅刻するのが確実でした.でも,タイトルに惹かれるものがあって,何かの縁のようなものを感じたのでチケットを購入してしまいました. 変化を求めていたわけではありません.何もない舞台の上に,何かを創造する様子を見てみたくなったのです.
勝手に使いましたが,お許しあれ. |
観劇して,感激しました....? とにかく良かったです.
あまりネタバレにならないように書きますが,観客参加型ということで,最初に小さな紙に全員が一単語ずつ記載してから集めます.途中でそれを舞台上に広くばらまいて,その単語をもとにセリフやストーリを構築しながら,小さな劇を何回か繰り返すのです.
単語から何かをディスカッションするというと,受験の小論文や面接などを思います.僕はその場で臨機応変に対応するのはとても得意でしたが,勝負となるとパターン化した負けない方法があります.事前にしっかりとしたストーリーを作って置くのです.例えば,実体験を交えながら,こうこうこうで人の役に立つ仕事に付きたいですみたいなストーリを完成させておきます.後は与えられたテーマが,高齢化であろうが税率上昇や犯罪検挙率などなんでもよくて,それについて最初に少しディスカッションを入れて,同じ結論に繋げていけば出来上がりです.全く面白くありませんね.訓練するほど,失敗しないように考えるほどにつまらなくなる例です.
ところが,今回の演劇はパターン化させずに,与えられた単語を元に新しいストーリーを常に作っているのです.話を作るには,単語から色々なことを連想する人生経験と知識が必要です.その中から即座に適切なものを選ぶ判断力が必要で,さらにセリフや仕草に速やかに連動させなくてはなりません.利用する単語は次から次に増えていきますが,最初の単語で出来た道筋にちゃんと戻れるように記憶して置かなければなりませんし,なによりも他の演者が連想して表現したものを的確に汲みとって展開して行く必要があります.凄いチームワークとコミュニケーション能力です.
役割分担と積極性にも驚きました.前に出ていこうとするモチベーションがどこから湧いてくるのかも不思議ですが,指示する人がいないのにそれぞれの役割分担が適切になされ,滞りなく運んでいきます.この積極性と協調性のハーモニーが会社などで実現したら,どれほど凄いことが起きるだろうと思います.
いくつかの劇はそれぞれプラスαの縛りを加えて変化をつけており,飽きさせません.頭をフル回転で演じているでしょうから,さぞかし疲れることだと想像します.劇団の入団試験を見ているような気さえしました.うまく回せないと,擬音擬態語になったり,映画のシーンの真似になったり苦しい展開になります.
最後のちょっと長い劇は,いくつかの小さなストーリーが最後に統合されて上手くまとまっていました.至誠という単語が,おそらく本当に認識しにくかったのと思われますが,誠意を理解し実現する旅のような話に組みあがり,理解できないということすらもストーリーに巧みに組み込まれていました.まったくバラバラの小ストーリーを一つの大きな話の結論にまとめていく様にも,高度な文章構成能力を感じました.
あんまり面白かったので,明日はトド子と二人でもう一度観劇しようかとも思ったのですが...即興は二度見ると感動が薄れるかもしれないと思ったのと,公演の後半になって慣れやパターン化を万が一でも見つけてしまったら残念に思うので,感動は一度で留めておくことにしました.あ,それに日曜も仕事だったしね....あ,ちゃんと日本橋にも行きましたよ.
そうそう,僕が紙に書いた単語は.....当然,”トド” でした.
捕まって中華の食材にされそうになった可愛らしいトドが,料理人の主人に助けてもらって飼われているところに,地中海からトド仲間が会いに来るという素敵なお話を演じて頂きました.
楽しかったです,ありがとう.また,いつか別の公演を観に行きます.
眠くなったのでこの辺で.
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