2010年5月8日土曜日

キャンプ事始めその4 後編 The Geology of the Grand Canyon


今回は,アウトドアではなくオタクねたです.

カンブリア宮殿という番組がある.だいぶ以前から放映されていたようである.司会者が...だったので敬遠していたが,最近になってよく見る.若かりし頃,そう”愛と幻想のファシズム”の頃に乱読したが,過激さを好む筆癖に辟易して,メルヘンチックな春樹をむしろ好んでいた.が,最近は司会者二人にすごく魅力を感じ始めている.番組内容も良く,タイトルもカンブリア紀にあった生命の大爆発から引用してつけたセンスもいい.


話は逸れるが,20年ほど前にスカイ島近くのバーで飲んでいたら,隣にいた英国の弁護士夫妻が ”ヨーロッパで一番美しいところはノルウェーの森よ” と教えてくれたことを思い出す.機会があったらアビスコや スカンジナビア一の山ケブネカイゼなども記したいが,あれは彼らの言うノルウェーの森だったのだろうか?


さて後編.滞在2日目は,キャンプ場を離れてトレッキングへ.目指すは片道3.2km,標高差450mのスパイトンネル.


two hikers relaxing on the Coconino Sandostone Plate



グランドキャニオンの遊歩道のうち,North Kaibab TrailはNorth Rimと言われる北側の村から谷底に降りることのできる唯一のトレイルである.途中の断層であるSupai Tunnelまでは(4 miles / 6.5 km round-trip)であるが,標高差は400mあり下りから始まる.(帰りは上りである)

頑張れば南側まで歩いて行けそうであるが,谷底のコロラド川までは往復で45km,標高差は1800mある.(Round trip to the Colorado River is 28 miles / 45 km and the trail descends almost 6,000 ft. / 1,800 m.)パンフレットに,川が渡れるとは...書いていない.(すいません,ちゃんと確認してません.)

上記写真のここ,Coconino overlook(シャレではない)まではトレイルヘッドから250mほど下ってやってくる.



North Rimの中心とも言えるロッジは,標高2500mに位置するKaibab Formationという地層の上に建っている.ロッジの窓からは絶景がひろがり,ここに滞在するだけでも十分に谷を堪能できる.このKaibab Formationは約二億五千万年前にできた地層である.あの恐竜時代よりさらに一億年ほど前であり,ジュラ紀の前の前の時代(ペルム紀)に相当する.

では,これより新しい時代の地層はどうなったのであろうか? 浸食されてなくなってしまったそうである...この地層は浅い海底から海岸だったようで,それが2000m以上も隆起して現在の標高になった.

ロッジの左側の奥に広がる樹木の生えた表層がKaibab Formationである.その下に白い垂直に切り立つ絶壁が見えるが,これが最初の写真で座っていたCoconino Sandostoneであり,さらに一千万年ほど古い地層になる


実はCoconino Sandostoneは風によって堆積した砂丘であった.ということは,この時代に隆起したか海面が下がったことにより一千万年の間は陸地であったことになる.これより上の層(Kaibab Formation)が海面下であったことが奇妙に思える.

実はこの頃(古生代の終わり)は大陸はPANGEAと呼ばれる一つの巨大な陸地であった.これが後にGONDOWANAとLAURASIAに分裂し,さらに現在の大陸に分かれていった.これらの名前はまるでドラゴンクエストか指輪物語に出てくる地名のようである.言い換えれば,この表層の地層が形成されたのは,大陸が一つに固まっていた時代ということである.

これらの大陸の移動はいわゆるプレートテクトニクス(説)に基づいている.地球を覆ういくつかのプレートの移動により陸地も移動し,衝突により世界の巨大な山脈や火山が形成され,離れていくところにも火山が形成されている.Mid-Atlantic Ridgeとよばれる大西洋のど真ん中を縦走するプレートの離れている領域にも巨大な火山が形成されているが,皮肉なことにほどんどは海底に沈んでいて表層からは見えない.唯一観察できるのがアイスランドであり,先日に噴火で大変なニュースになったばかりのところである.



もう少し谷をのぞいてみる.右側にちょこっと見えてる白壁が先ほどのCoconino Sandostoneであり,その下に斜めに広がる層状の赤土がHermit ShaleおよびSupai Formationとよばれる地層であり,河口部に広がってできたとされている.よって太平洋側である西に向かうにつれて海の化石が多くみつかるようである.この赤土はなんと300m以上の高さにわたり,すぐ下には垂直に切り立つ赤壁が見える.これがRedwall Limestoneであり,グランドキャニオンで地層を見るときの一つの目印として使いやすい.ここはハイカーにとって通過するのが難関な垂直の地層である.



表層の5つの地層が説明されている.
じつはこれだけで500m以上の厚さがあるが,歩道は良く整備されていて,
当初のハイキング目標であったSupai Formationまでなら半日で往復できる.




見晴らしの良い場所に立つと,先ほどの5層より深いところが見えてくる.手前の小さな塔はCoconino Sandostoneの残りでしょう.地層の固さによって浸食のされかたがことなり,Hermit ShaleからSupai Formationは崩れやすいのか,傾斜はなだらかである.

中央部に切り立つ壁がRedwall limestoneである.この三億五千万年以上前にできた百メートル以上はある赤壁の下に広がるのがTonoto group  と呼ばれるMuav limestone, Bright Angel Shale, Tapeats sandstoneからなる白から灰色のややなだらかな地層が広がる.が,実はここに問題がある.


実は赤壁から灰白色のTonto group には時代の連続性がない.浸食で1.5億年分が欠損して,Tonto group はなんと五億年前の地層になる.そう,そこに広がるのは爆発的に生物の種類が増えたカンブリア紀の世界である.


Redwall Limestone(赤矢印)の下にカンブリア宮殿(黒矢印,Tonto group)が広がる.



表層からこのカンブリア紀の地層までは約4,000ft,千二百メートルある.しかしコロラド川はまだ深部にあり,写真手前では見ることができない.

左奥の楕円で囲まれた領域がさらに深部のGrand canyon super groupと呼ばれる地層である.ここは約十億年前に形成されたものであるが,コロラド川はここからさらにえぐられた岩盤を通過している.コロラド川の周囲の地層は堆積した砂が超高圧と熱で変成してできた固い岩盤である.最下層は20億年弱前の極めて古い地層であるが,実はなんとロッキー山脈の標高4000mにある岩盤と同じ岩である.


では,地表が2億年前なら,もっと最近の地層はどこにあるのでだろう? その答えは,もっと新しい地層が観察できるZion National ParkやBryce Canyon National Parkにある.



Bryce Canyon National Park




それと,グランドキャニオンの川底の岩盤とロッキー山脈の岩が同じ時代である理由は,なんででしょう?  これらのオタ話題はまたの機会に...




さてさて,蘊蓄はおいといても,ほんとに雄大な景色です.

人も恐竜もいない時代.原始的な小さな生き物しか存在しなかった地球
陸地は今よりずっと小さく一かたまりだった時代.
どんな景色がひろがっていたんだろう?

そんな悠久の時に思いを馳せる楽しみが伝えられたら幸いです.(が,文章が拙くすみません...)


もし,谷底に歩いて降りる機会があれば,下るのに大変な垂直の赤壁やら,
(先)カンブリア宮殿をちょっと思い出してくださると嬉しいなあ...

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